2016年6月25日土曜日

教師教育についての動画①

こんにちは、入澤です。
2014年の秋に履修したCurrent Issues in Teacher Educationというコースを担当されたClare Kosnik教授から教師教育についてのオススメの動画を共有して頂きました〜。英語ですが共有したいと思います。プレゼン動画でスライドがついているので、聞き取りづらいところも文字を読むことで補えるかと思います。実はこの動画、教授のコースを受講した学生が最終課題の一部として作成したものらしいです。クオリティが高くて驚きました。

▼こちらが動画です。



Current Issues in Teacher EducationというコースはPedagogy of Teacher Education(教師教育学)や教師教育行政、教師教育者の専門性、教師教育研究の手法など幅広く教師教育について扱うコースです。
共有した動画はコースの序盤にKosnik教授が時間をかけて何度も強調していた教師という専門職特有の困難について扱っています。彼女がこのトピックを強調した理由としてアメリカの新自由主義的な教育改革の影がカナダにも迫っていることが挙げられます。アメリカでは教員免許代替制が横行、質の低い教員が増えることで教育現場の腐敗を招いています。にも関わらず、「情熱があれば誰でも教師になれる」といった言説や教師教育の成果を否定するデタラメなデータが大量に生産されることで現在の改革の流れは断ち切ることがより困難になっています。
Kosnik教授は授業で、教師教育者が社会全体そして大学の中で教師教育が置かれている状況を理解し教師教育を守ることの重要性を強調されていました。そのためにも教師という専門職がどのように世の中から認識されるのかを教師教育に関わる人たちが確認しておくことが大切になります。動画の最後で「21世紀の教師教育」として提示されているものを実現するためにも教師教育者が現状認識を揃えることが重要になります。

さて、今日はここまで〜。ではでは。

2016年6月24日金曜日

Mayworks −労働者のアートフェスティバル−

こんにちは、入澤です。
今日はMayworksという5月に一月にわかって開催されていたアートフェスティバルを紹介します。



Mayworksは1986年から30年以上にわたって開かれている労働者文化に焦点を当てたアートフェスティバルであり、トロントとヨーク地区の様々な労働組合、大学そしてアーティストたちによって運営されています。このアートフェスティバルの目的は社会の中で周縁に位置する労働者文化をセンターステージに持ち込むことであり、構造的な差別や不正義と闘うことが目指されています。また、労働者文化に焦点を当てていますが、インターセクショナリティつまり重複した抑圧の存在が常に意識されており、女性、ファーストネーション、障害者、LGBTの労働者を表象するように努められています。

5月のメーデーでのデモを皮切りに、20以上の講演・討論会、ワークショップ、展示会、パフォーマンスが行われていました。(プログラム→http://www.mayworks.ca/wp-content/uploads/2016/04/Mayworks-2016-Program-Guide.pdf)。僕もそのうちのいくつかに参加しました。

■ Mapping Our Work

これはトロントの労働運動の歴史を学ぶウォーキングツアーで、Mayworksの期間外にも定期的に開催されているようです。運営主体は労働団体とジョージブラウンカレッジ。僕が参加したときのテーマは女性の労働運動だったので、ツアーのガイドも全員女性。参加者も8割ぐらい女性でした。



写真は労働省前での解説の場面。労働者の怪我と怪我による失業などのリスクについて学びつつ、過去にどのような運動がここで行われたのか聞きました。ツアーは他にも保育所の増設を訴える女性労働者の運動に縁のある場所など巡り、最後は同日開催されていた産休のタイミングで行われた黒人女性の解雇に対する抗議デモに合流。


下の写真はツアーでもらったトロントの労働運動関係施設の地図。表紙は19世紀の市庁舎前の様子らしい。奥にあるのが市庁舎。裏手がすぐにスラムだったことがわかりますね。



マイノリティの活動の歴史を本や映像、授業で学ぶのではなく普段歩いている街中で学ぶというのはとても意味があることに思えました。活動家は街に繰り出すわけですからね。自分が立っている場所は今までにも多くの人が志を共有し闘った場所だと知っていると背中を押される思いがするのではないでしょうか。

■ Behind the Fare



トロントのタクシー運転手とUberという配車サービスの衝突を描いたドキュメンタリー映画。Uberは普通自動車免許と自動車を持つドライバーと契約し、ドライバーをアウトソーシングすることで大幅なコストカットに成功し、世界的に拡大した配車サービスです。利用者としては格安でタクシーと全く同様のサービスを受けられるので喜ばしいものです。ただ、カナダをはじめ多くの国ではタクシー運転手という職業は職にあぶれた移民層の受け皿として長年機能してきました。Uber側から見るとタクシー業界は利権を守る硬直化した業界と捉えられるのですが、タクシー業界は価格をある程度高く設定することで移民層の生活を守ってきた自負があります。

映画の中に出てくるタクシー運転手はインドからの移民で、祖国ではエンジニアだったそうです。修士の学位を持っていてもタクシーの運転手になるしかないというのはよくあること。こういった現実を見据えた上で政策としてしっかりと業界を保護して欲しいとタクシーの運転手たちは立ち上がり、闘いました。そしてまだまだ闘いは続いています。


映画の上映の後には監督等のトークセッションがあったのですが、監督が同年代で驚きました。大学院ではカルチャル・スタディーズを専攻していたとのこと。若い世代のアーティスト/活動家がついこの間(昨年の後半)発生した社会問題についてドキュメンタリーをすぐに作製して世に出すっていうのはすごいなぁ!と思いました。フットワークの軽さ、スピード感がすごい。


■ Marx in SOHO



米国の歴史家ハワード・ジンが脚本を書いた独白劇。冷戦後、「マルクスは死んだ」と言われる時代に「死んでないぞ」と死んだはずのマルクスが甦り、面目躍如のために聴衆に語りまくるという設定。風刺の効いた巧みな台詞まわしがとても面白く、全く飽きることなく最後まで楽しめました。マルクスが「私はマルクス主義者ではない」と自分の思想が理解されないことのいら立ちを語ったり、資本論のつまらなさについての自虐ネタを披露したりととにかく言葉の切れ味がすごかった。劇の多くの時間を割いて自分の人生や家族のことをマルクスが語るのですが、特にバクーニンを時間をかけてバカにするしつこさが愉快でした。

マルクスが主人公の独白劇なんて誰が見るんだろうと思っていたけど、会場は超満員。立ち見も出ていました。客層も老若男女幅広く、色んな人種がいました。前からずっと思っていたけどカナダでは「マルクスは死んだ」なんてことはないのかも。

■ Superbutch


Butchとはレズビアンの男役の女性のこと。カルチャル・スタディーズのコースの教授も言っていたのですが、Butchはメディアにあまり表象されることがない社会集団です。このイベントはButchのファッションに焦点を当てたイベントで、ファッションショーや衣服の販売、そしてパネルディスカッションが行われました。ファッションショーなんて言ったことなかったのですが、めっちゃ感動。Butchとして自分の着たい服を誇りをもって着るモデル達はとてもかっこ良かったです。



パネルディスカッションにはモデルやデザイナーだけでなく大学の先生達も参加していました。とくにヨーク大学の先生が説明していたトロントのButch達の歴史が印象に残っています。歴史の教科書では扱われない=どうでもいいということでは決して無い。忘却された歴史を掘り起こし自分たちの位置を知ることで次に向けて力強い一歩が踏み出せます。





それにしても俺は姿勢が悪い。

最後に

見てきたように5月はメーデーに始まる労働者のための月ですが、6月はプライドパレードでクライマックスを迎えるLGBTQのためのプライド月間です。なんだかんだ毎月なんかやってるかも。こういう風に特定のイベントの日だけマイノリティについて考えるとかじゃなくて「月」レベルのある程度長い期間を設定して集中してイベントを行うのは効果があるだろうなぁと思いました。ただ、こちらの教育の世界ではBeyond Heros and Holidaysが合言葉になっています。マイノリティの中のヒーローについて学んだり○○月間だからその月にだけマイノリティのことを勉強したりっていうのは限界があるからその先に行こうよ!って意味です。カリキュラム全体にどう社会正義ための学習を組み込んでいくかが常に模索されている。最後にちょっと教育についてふれて今回は終わりたいと思います。

では!




2016年6月21日火曜日

近況報告

お久しぶりです、入澤です。


無事にオンタリオ教育所Curriculum, Teaching and LearningのMEdの課程を修了しました。改めて留学全体の振り返りはしたいと思いますが、2年間の留学は間違いなく自分の人生を変える素晴らしい体験でした。七月上旬に帰国し、日本で研究・勉強を続けながら新しいことにチャレンジしたいと思っています。ただ、将来必ず博士課程でOISEには戻ってきたいと思っています。自分が進めている研究を英語で博論としてちゃんとまとめて世界の教育研究に貢献したいですし、Social Justice Educationを構成する学問領域を体系立ててもっと深く学びたいです。何より、トロントの教師や活動家の人たちからもっと多くのことを学びたい。

今、40歳以降まで見据えてビジョンを描き、プランを立てています。学問のために学問をするのでもなく、近視眼的で単発的な実践に陥るでもない。そんなあり方を心がけながら、生きていきたいです。日本の社会そして教育の構造的な歪み、その中で子どもたちの置かれた状況を考えると変革は一筋縄ではいかないことはわかっています。それでも、粘り強く思考し行動したい。日本にいるすべての子どもたちのWell-Beingが大切にされ、常にエンパワメントすることができる社会の実現に貢献したいです。

今日は短め。それでは!



2016年5月21日土曜日

子どもの貧困③ カナダのオンタリオ州の子どもの貧困対策

こんにちは、入澤です。
今日はカナダのオンタリオ州の子どもの貧困対策についてお伝えしたいと思います。

カナダのオンタリオ州で子どもの貧困対策が始まったのは今から25年以上前の1989年です。1989年に子どもの貧困率が10%を示していることが明らかになって以降、様々な調査、施策が実施されてきました。しかし、2008年のデータは子どもの貧困率が15.2%であり数値が上昇してしまっていることを示しています。これには貿易の自由化、グローバリゼーション、賃金の減少、非正規労働の拡大、移民政策の変化そして2つの大きな不景気など多くの影響があります。ただ明確だったのは子どもの貧困対策が一朝一夕に解決されるものではないということでした。

このような状況を鑑み、オンタリオ州は2008年に新たな貧困対策をBreaking the Cycleとしてまとめ発表しました。



Breaking the Cycleは包括的かつ成果志向の対貧困戦略の大綱であり、貧困が多様な側面を持つ複雑な現象であることを十分に認識した上で策定されています。Breaking the Cycleの中で扱われたのは雇用と賃金の安定化、住宅の保障(つまりホームレス対策)、そして子どもの貧困対策でした。中でも子どもの貧困対策は最重要課題として位置づけられ、2008年の数字を基準として子どもの貧困率を5年間で25%下げるという目標が掲げられました。そして実際に対策は功を奏し、3年後の2011年には子どもの貧困率は13.6%となり2008年の15.2%から1.6%の減少に成功しています。世界的な不況の影響や国からの支援の少なさもあり目標値の達成にこそ至っていませんが、その3年間で47000人の子どもとその家族が貧困状態から脱し、2011年だけで61000人の子どもとその家族が貧困状態に陥るのを防いだそうです。現在貧困状態の子どもの人数が55万人と言われているので、この数字はことさら大きいものだと思います。

また、Ontario Child Benefit(オンタリオ子ども手当)が子どもの貧困対策の柱として開始されたこともBreaking the Cycleの大きな成果の1つだと思います。貧困家庭の子どもたちへの給付金として一人あたり年間250カナダドルから始まったこの子ども手当ですが、現在は最大で一人当たり1310カナダドルまで上がっています。この子ども手当を現在オンタリオ州の50万世帯以上の家庭が受給しており、全体でだいたい10億カナダドル規模のお金が毎年投資されているようです。オンタリオ子ども手当だけ見ると日本の子ども手当の額と比べてそれほど充実しているようには見えませんが、カナダには国レベルでも複数の子ども手当(Canada Child Tax BenefitやUniversal Child Care Benefit)を支給しており、全て合わせるとかなりの額になります。例えば9歳と10歳の子どもがいるひとり親家庭で、親が最低賃金に近い額で働いている場合には全ての手当を合わせると12,000カナダドル(100万円)以上の額が給付されることになります。こういった子ども手当の充実化そして最低賃金の上昇の結果、2003年には同様の家庭では実質的な収入が20,000カナダドル以下だったのが2014年には34,000カナダドル以上に上昇しています。



下の図は2008年から2011年までの再配分による貧困率の低減具合を示した図です。カナダ政府そしてオンタリオ州政府の介入による再配分が貧困を緩和させているのが見てとれます(どこかの国の再配分とは大きな違いです)。

さて、2014年の9月にオンタリオ州政府は第2期対貧困5カ年計画を策定しました。それはBreaking the Cycleで展開された貧困対策を引き継ぐものでRealizing Our Potentialとしてまとめられています。




以下でRealizing Our Potentialで紹介されているオンタリオ子ども手当以外の子どもの貧困対策を紹介します。対策領域は子どもたちの食事、医療、メンタルヘルス、教育で、教育はさらに幼児教育やネイティブカナディアンの子どもたちへの支援などを含みます。また、以上のものと合わせて雇用の領域に含まれている若者への就労支援も紹介します。

食事支援


Student Nutrition Programというプログラムが展開されています。このプログラムは支援の必要性の高いコミュニティを中心にオンタリオ全体で展開されており、幼稚園から高校生そして若者まで支援対象となっています。2012年度には70万人の子どもと若者に食事を提供しています。州政府はさらに5万6千人の子どもと若者に朝食を提供するために今後3年でさらに32万カナダドルをかけて340箇所にプログラムを展開していく予定です。これらの食事支援は主に学校の中で実施されているのが特徴です。学校を中心にプログラムを展開することで多くの子どもたちに食事を提供することに成功しています。また、この食事支援はネイティブカナディアンの居住区内の学校にも展開されています。

医療支援


Healthy Smile Ontarioという歯科医療のプログラムが7万人の子どもたちに提供されています。これは貧困世帯の子どもほど歯科医療のニーズが高い割りに医療費が高いためです。また、Health Benefits for Children and Youthという貧困世帯の子どもたち向けの医療手当も給付されています。
※日本とカナダでは根本的に医療のシステムが異なります。残念ながらここでは全てを説明することができません。

メンタルヘルス


オンタリオ州ではおよそ20%の人たちが人生のどこかでメンタルヘルスの問題を抱え、2.5%が深刻な精神病を患っています。深刻な精神病を患う人が失業状態にある割合は70%から90%と言われており、彼らの多くが貧困状態に陥るリスクを抱えています。メンタルヘルスの問題は人生の早い段階から始まることが知られており、70%が子ども時代や思春期から問題を抱えています。こういった状況を踏まえて、州政府はComprehensive Mental Health and Addictions Strategy: Open Minds, Healthy Mindsという10カ年のメンタルヘルスへの取り組み計画を策定しました。この最初の3年は特に子どもと若者のメンタルヘルスに焦点が当てられ、9300万カナダドルの予算が投じられました。5万5千人の子どもとその家族が早期の問題の発見、質の高いサービスへのアクセス、ニーズに即した支援を保障されています。また、ネイティブカナディアンの居住区における若者の高い自殺率やメンタルヘルスの問題を考慮し、ネイティブカナディアンへの支援に特化したソーシャルワーカーの育成や特別な支援プランの策定なども行われています。

結果の平等志向の教育システム


オンタリオ州は過去10年で大きく教育改革を成功させています。2003年には3年生と6年生に対して実施される英語と算数の標準テストにおいて53%しか合格ラインを超えていませんでしたが、2012年には72%にまで上昇しています。また、2004年には高校卒業率は68%でしたが2012年には83%まで上昇しています。


OECDが実施するPISAでもオンタリオ州の子どもたちは非常に良い成績を示してきました。また、同時に階層の違いによるテストスコアの差が小さいことも明らかになっています。これは多くの移民の子どもたちが常にやってくる状況を考えれば驚異的な成果といえるでしょう。



オンタリオ州では子どもたちの潜在能力の実現を阻む障壁を無くすことが常に意識され、Equityつまり結果の平等が目指されてきました。実際に、オンタリオ州の教育ビジョンとして作成された『卓越した成果の達成 −新教育ビジョン-』(Achieving Excellence: A Renewed Vision for Education)は「卓越した成果の達成(Achieving Excellence)」、「ウェルビーイングの促進(Promoting Wellbeing)」、「公教育への信頼感の醸成(Enhancing Public Confidence)」そして「結果の平等の保障(Ensuring Equity)」から構成されています。

オンタリオ州は「結果の平等の保障」の実現のためにさらにインクルーシブ教育の浸透のためのプランを策定し様々な改革を行っています。これについてはまた別の機会に書きたいと思います。

幼児教育



オンタリオでは幼児教育への投資を大変重要視しています。質の高い幼児教育を子どもたちに提供することで早期に子どもたちの学習ニーズを明確にし、適切な介入を行うことができます。その結果、階層差による教育成果への影響を緩和することが可能です。

オンタリオ州では全ての子どもたちが4歳から幼稚園学級(Full-Day Kindergarten)に通います。そして幼稚園学級の多くは小学校の内部にあります。また、小学校の中には子育て支援センター(Parenting Center)があることも多いです。このように幼稚園学級や子育て支援センターを小学校の内部に設けることで、子どもたちが幼い時から学校に親しみ、親を巻き込むことが可能となっています。

オンタリオ州の幼児教育のカリキュラムはプレイベースドラーニング(Play-Based Learning)という考え方で構成されています。幼い時から子どもたちを机に縛り付けて知育を行うのではなく、子どもたちが遊びを通じて自然に育む好奇心や探究心を大切にする学びのあり方が追究されています。このプレイベースドラーニングは幼稚園学級だけでなく保育園(Day care)やその他の幼児に関わる全ての施設で徹底されており、幼児教育の専門性が社会全体で大切にされています。このプレイベースドラーニングについても別途ブログ記事を書く予定です。

様々な理由から親と暮らせない子どもたちへの支援

カナダ英語でCrown wardsという単語があります。これは様々な理由から血縁上の親と一緒に暮らすことが出来なくなった子どもたちのことを指す単語です。こういった子どもたちは大学教育へのアクセスや労働市場への一歩を踏み出すにあたり多くの障壁に出くわします。

オンタリオ州では「100%の授業料援助(100% Tuition Aid for Youth Leaving Care)」というプログラムを実施しており、こういった子どもたちに対する大学授業料の無償化を実現しています。またLiving and Learning Grantという奨学金の給付も行っており、月々5万円が支払われます。さらに、社会に出るCrown wardの若者に対してYouth-in-Transition Worker Programというプログラムも実施されており、420万カナダドルを投資して16歳から24歳の子ども・若者への就労支援も行っています。また200万カナダドルを投じて高校生への学習支援なども実施しています。

ネイティブカナディアンの子どもたちへの支援

カナダは過去のネイティブカナディアンへの侵略の歴史を深く反省し、支配でもなく統合でもない共生の道を模索しています。この内容だけでブログ記事が何本も書けてしまうほど複雑で難しい問題なのでここではどのような支援が行われているかしか書くことが出来ませんが、過去の歴史を振り返りマイノリティへの適切な支援を社会全体でしないといけないことをカナダは示している思います。

ネイティブカナディアンのコミュニティ全体の貧困の問題や文化的差異の存在からネイティブカナディアンの子どもたちの教育達成度は他の子どもたちに比べて大きく下回っていることが知られています。オンタリオ州はAboriginal Education Strategyというアクションプランを策定し、ネイティブカナディアンの子どもたちの学習成果とウェルビーイングの向上のための改革を進めています。またPostsecondary Education Fund for Aboriginal Learersという基金が設立されており、3000万カナダドルが大学などネイティブカナディアンの学生の学習を支える機関に分配されています。また、同基金は毎年150万カナダドルを奨学金としてネイティブカナディアンの学生に給付しています。

ここに紹介していないものもまだまだありますが(例えば、学童やサマーキャンプなどは貧困世帯の子どもたちは格安で利用することができます)、以上が対子どもの貧困としての主な取り組みです。

若者への就労支援

雇用と収入の保障のための対策でも若者への支援が重点投資領域になっています。オンタリオ州政府はオンタリオ若者徒弟プログラム(Ontario Youth Apprenticeship Program )を実施しており、2013年度は21603人の高校1年生と2年生に職業訓練を提供し、手に職をつけて高校を卒業できるように支援しました。

そして、ここ2年間で計2億9500万カナダドルを投じて若者雇用戦略(Youth Jobs Strategy)を展開しています。障害を持つ若者やネイティブカナディアンの若者など特に支援のニーズが高い人に対して、スキルを身につけ、仕事を見つけることを支援しています。30000人がプログラムを通じて職を得ることが目標とされていますが、今までに既に20000人が職を得ています。

さて、オンタリオ州の子どもの貧困対策の紹介は以上です。
これだけ様々な対策が、包括的に計画を立てて、目標値の達成のために実施されています。投入されている予算などを考えても明らかに日本と規模が違いますよね。日本の子どもの貧困対策は企業やNPOを巻きこんで進められるようですが、国民を欺く「ショー」のように見えます(むしろ、一番に声を上げるべきNPOの人間を飼い殺しにしようとしているように思えます)。

感想

日本の子どもの貧困対策のことを考えながら以下に簡単に考えたことを書いてみたいと思います。

  • (当たり前だが)そもそもホームレス問題や最低賃金・雇用などを含めた貧困対策の大きな枠組みがないとおかしい。子どもの貧困対策はその中の大切な1つ。
  • 税金徴収して再配分。それが一番最初。
  • 子どもの貧困対策は企業から寄付金を募ってNPOに丸投げしてできるようなものではない。税金使って国が本腰入れて行うべき。
  • 貧困対策のための数値目標の設定が明確にされ、いつまでに達成するかを明瞭にする必要がある。
  • 結果の平等を力強く目指す必要がある。どういったマイノリティの子どもたちが日常でどのような障壁にぶつかるのかを明らかにした上で適切な支援をするべき。家庭の収入(階層)だけでなく、障害の有無や日本語能力、ジェンダー、セクシャリティ、人種など様々な角度から子どもたちに必要な支援を考えるべき。
  • 明らかに「既存のシステムのほころびを繕う」という発想では子どもの貧困対策は機能しないと思われる。
  • オンタリオの子どもの貧困対策の中心は学校。公教育がいかに変われるかが鍵。

パナマ文書で日本の富豪たちの税金逃れが発覚しましたが、そういう人たちが経営する企業からの寄付に頼る日本の子どもの貧困対策って何なのよという話ですよ(怒)。子ども食堂や学習支援の広がりはとても素晴らしいことだと思いますが、明らかにそれだけではどうしようもないですよね。今ここの子どもたちへの支援を行いながら国に声をあげていくことが求められているのではないでしょうか。政治をちゃんと機能させたい。


今日はここまで。






























2016年5月19日木曜日

カナダのトランスジェンダー差別禁止法

どうもこんにちは入澤です。
さて、今日は昨日5月17日が国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアということでLGBTについてのカナダのビッグニュースをお伝えしたいと思います。

カナダのトルドー首相はトランスジェンダーへの差別を禁止する法案可決を目指すと発表しました。これは昨年の首相選挙の時にトルドーが公約の1つとして掲げていたものです。国会はトルドー首相率いるリベラル陣営が過半数をしめているのでまず問題なく可決されるでしょう。



もともとカナダには人種、性的志向、宗教などによる差別を厳しく禁止する人権法がありますが、今回の法案によってその人権法に"gender identity"と"gender expression"の項目が付け加えられることになります("gender identity"とは簡単に言うと自分のジェンダーを心の中で何だと思うかです。それに対して"gender expression"とはある人が人前で示すジェンダーです。)また、刑法が定めるヘイトスピーチの保護対象としても明確に記載されることになります。

法務省のホームページには今回の法案についてのわかりやすい解説ページが既に設けられています(http://www.justice.gc.ca/eng/cj-jp/identity-identite/index.html)。また、法務省主導のキャンペーンとしてTwitter上のディスカッションが#FreeToBeMeでおこなわれています。





このトランスジェンダー差別禁止法は決してトントン拍子に進んだ話しではありません。実は過去に計6度も同内容の法案が国会に提出され否決されていました。それでもLGBTのアクティビストグループは長年諦めずに活動を続け、新民主党の議員らから法案は提出され続けていました。



カナダは多様性の国として知られていますが、トランスジェンダーの13%がトランスジェンダーであることが原因で仕事をクビになった経験を持ち、18%が就職における差別を経験しています。そしてそれ以上に日常で受ける差別の存在ももちろんあります。ニュースは10歳のトランスジェンダーの女の子が「将来より喜びに満ちた人生を送ることができる」と言っているのを報じています。


映像を見ていただいたら分かりますが、保守的な国会議員もたくさんいますね。
全体としてお祝いのムードが高まっていますが、多くのLGBTの人たちが法案可決はスタートラインに立つことだと認識しているようです。法案が可決したからといって日常の微かなしかし確かな差別は簡単にはなくなりません。カナダの挑戦はまだまだ道半ば。そう思えることがカナダの多様性の強さでしょう。

今日はここまで。
















2016年5月18日水曜日

アナザー・ストーリー・ブックショップ

どうもこんにちは、入澤です。
先週末にアナザー・ストーリー・ブックショップという本屋さんに行ってきたので、今回はそれについて書こうと思います。


アナザー・ストーリー・ブックショップはトロントの西の外れにある書店です。この書店は多様性や社会正義をテーマにした本を扱い、子どもから小中学生そして大人まで楽しめる様々な本を売っています。書店内で頻繁にイベントを行っており、特に新刊の著者を招いてのトークイベントをよく行っているようです。またトロント市内の幼稚園や小中学校にも本を出荷しています。店員さんによるとトロント市内に他にも似た様なお店は何軒かあるとのことでした。ただ、他のお店は人種やフェミニズムに焦点を当てているのですが、このお店は様々なテーマを扱っている点で少し違うようです。

店内には環境問題、ジェンダー、セクシャリティ、人種差別、社会運動、サブカルチャー、世界各国の政治などを扱った多くの本が陳列されており、見ているだけで長い時間楽しめました。書店の半分ほどを幼児からティーン向けの本が占めており、当日も多くの子どもたちが親と一緒に来店していました。




また、当日は"That's Not Fair: Getting to Know your rights and freedom"という絵本の著者によるトーク&子どもたちへの読み聞かせイベントが店内で行われていました。


この本は日本でいう就学前の子どもたちを対象にしており、"That's Not Fair" つまり「そんなのおかしい!」と思う気持ちの大切さを子どもたちに伝えるために書かれています。本の中には6つのストーリーが収められていますが、どのストーリーの中でも一部の人が特別扱いされ他の人が除外されたりといった理不尽なことが起こります。それに対して子どもたちが「おかしい!」と思う気持ちを肯定することが一貫したテーマになっています。読み聞かせの時に著者のおばあさんが「あなたの家にもルールがあるでしょう?」と子どもたちに尋ねていました。子どもの達の様々な答えに対して「ルールはね、変えられるのよ。」と優しく話しているのがとても印象に残りました。英語にはrightやjustなど多くの「正しい」を意味する言葉がありますが、子どもたちが最初に出会う「正しさ」の感覚はFairnessです。その感覚をしっかりとエンパワメントしてあげたいですよね。

さて、少し話が逸れてしまいました。最後に少しだけ思ったことを。
アナザー・ストーリー・ブックショップのような本屋さんが普通の街角の書店としてトロントの中に存在していることに意味があるなぁと行ってみて思いました。「なんたらかんたらチョメチョメ資料センター」みたいなところにある図書館が多様性や社会正義についての本や資料を提供しているのも大事ですが、もっと近づきやすいところに読みやすい本があるのが大切だろうなと思います。とてもいい本屋さんだったのでまた行ってみたいと思います。そして、トロントにある他の似た本屋にも。

それでは。












2016年5月17日火曜日

アロースミススクールの挑戦 −学習障害を治せるものに−

こんにちは、入澤です。
今日はトロントにあるアロースミススクールという学習障害がある子どもたちを対象とした学校について紹介します。今年の3月ごろの学校開放日に実際に学校に見学に行ってきました。

アロースミススクールは脳の認知機能(読み、書き、計算、ロジカルシンキング、課題解決など)に困難を抱える子どもたちへの支援に特化した私立学校として1980年にスタートしました。以来30年以上にわたって活動しており、アロースミススクールの開発したプログラムは世界15カ国以上に広がっているそうです。

アロースミスのプログラムの特徴は子どもたちの脳のどこの部位に問題があるのかを明らかにし、その部位の活動を活性化させるためのトレーニングを提供することで、学習障害自体を克服することにあります。現在、様々なテクノロジーが開発され、それらの力を借りることによって学習障害を持つ子どもたちも苦労することなく他の子どもたちと同じように教室で学ぶことができるようになってきています。このようなカリキュラムのユニバーサルデザインはとても大切なものですが、アロースミスのプログラムは全く違う可能性を示しています。学習障害による日々の生活・学習へのバリアをテクノロジーによってバイパスするのではなく、治療可能なものと捉えて治してしまうという可能性です。

この学校の設立者であるアロースミス女史が実は学習障害に長年苦しんでいた張本人であり、そして実際に自分の学習障害を克服した人でもあります。本人が話しているTED Talkがあるのでぜひ見てみて下さい。彼女が自分の力で哲学書を読み理解できるようになった時の感動がひしひしと伝わってきますよ。


アロースミスのプログラムは子どもたちの認知発達の細かなアセスメント、一人ひとりに最適化されたオーダーメイドのプログラムから成り立っています。プログラムでは視覚・聴覚への刺激(映像で片方の目を隠しているのは脳の片方への負荷を上げるため)、パソコンなどのICTをフル活用し子どもたちの脳への刺激を最大限高めています。以下の映像でプログラムの概要がわかるかと思います。


アロースミススクールでは1日4コマ分の認知トレーニングと2コマの通常授業を行うと言っていました。同様の内容のカリキュラムを持つ姉妹校も広がっていますが、このアロースミスの認知トレーニング自体もプログラムとして広まっており、特別支援教育の枠組みで実施している自治体もあるとのことです。また、アロースミス女史が大人になってから学習障害を克服したことからわかるように、プログラムは大人にも効果があり、実際に大人にもプログラムを提供しているそうです。

また、プログラムの開発や効果測定のために大学とがっつりと連携しており、近いうちにブリティッシュ・コロンビア大学との共同プロジェクトの成果が発表されるとも言っていました。

プログラムの成果についてはこちらからダウンロードできます。⇨http://www.arrowsmithschool.org/arrowsmithprogram-background/pdf/academic-skills.pdf
子どもたちの声はホームページから
http://www.arrowsmithschool.org/arrowsmithprogram-background/outcomes-prof.html


アロースミスのプログラムを行うためにはかなりの集中した時間、パソコンなど多くのICT機器が必要であり、それが拡大のためのネックになっているとのこと。ただ、プログラムの拡大を示す世界地図を見ていたら韓国にもアロースミスのプログラムがあるみたいなんですよね。なので、ぜひ日本にも広がって欲しいと思いました。全ての子どもたちの学習権を保障することを第一と考えると、営利企業の塾としてではなく、学校の特別支援教育としていつか広がって欲しいですね。

レビュー数が伸びたら、もう少し詳しい記事を上げるかも。
とりあえず、今日はここまで。


入澤